【日銀】金利ある世界の歩き方:2025年、住宅ローンと家計を襲う「実質金利」の正体

経済
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・「金利ある世界」への転換は、借入コスト増と預金収入増の二極化をもたらす

・変動金利型住宅ローンの利用者は、月々の返済額増加リスクへの備えが急務

・経済学的には「名目金利」ではなく、インフレ率を引いた「実質金利」での判断が重要

2024年から2025年にかけて、日本経済は歴史的な転換点を迎えています。長らく続いた「マイナス金利政策」が解除され、私たちは本格的な「金利のある世界」へと足を踏み入れようとしています。

ニュースではしばしば「円安か円高か」という為替レートの話ばかりが注目されがちですが、実は私たちの生活にとってより直接的で深刻な影響を与えるのは、国内における「お金の時間価値」の変化です。

今回は、為替の変動を一旦脇に置き、純粋に「金利が上がると私たちの家計や行動はどう変わるべきなのか?」について、最新の経済学の知見と統計データを基に紐解いていきます。

1. なぜ金利は上がるのか? アカデミックな視点

そもそも、なぜ日本銀行は金利を引き上げるのでしょうか。単に物価が上がっているから、というだけではありません。ここでは経済学の基本原理であるフィッシャー方程式の視点から解説します。

経済学者のアーヴィング・フィッシャーが提唱した以下の式をご覧ください。

名目金利 ≒ 実質金利 + 期待インフレ率

これまで日本は「期待インフレ率(将来物価が上がるという予想)」がほぼゼロ、あるいはマイナスでした。しかし、賃上げや原材料高により人々のインフレ予想が定着しつつあります。この状況で名目金利を低く抑え続けると、実質金利が大幅なマイナスとなり、経済を過熱させすぎる(バブルを生む)リスクが生じます。

つまり、今回の利上げは、経済を正常な状態に戻すための「金融政策の正常化」プロセスなのです。これは、私たちが「今日使うお金」と「将来のために取っておくお金」のバランス(異時点間の代替)を見直すべき時期が来たことを意味します。

[Image of Fisher equation diagram economics]

2. 住宅ローン「変動金利70%」の時限爆弾

「金利ある世界」で最も懸念されるのが住宅ローンです。国土交通省の統計によると、日本の住宅ローン利用者の約7割以上が「変動金利」を選択しています。これは世界的に見ても極めて特異な状況です。

金利タイプ 利用割合(2023年度) リスク特性
変動金利型 約 72.3% 金利上昇が返済額に直結
固定金利期間選択型 約 18.3% 期間終了後にリスク発生
全期間固定型 約 9.4% 金利変動リスクなし

出典:住宅金融支援機構「住宅ローン利用者調査(2024年発表)」より作成

[Image of Japan mortgage rate trends chart]

5年ルール・125%ルールの罠

多くの変動金利ローンには「5年間は返済額が変わらない(5年ルール)」「返済額が上がっても従来の1.25倍まで(125%ルール)」という激変緩和措置があります。しかし、これは安全装置ではありません。

金利が急上昇した場合、毎月の返済額が変わらなくても、その内訳である「利払い分」が急増し、「元金」が全く減らない(あるいは未払い利息が溜まる)という現象が起きます。これを負の償却と呼びます。

学術的には、家計が将来のリスクを過小評価する「現在バイアス(Present Bias)」が、変動金利の選択を後押ししてきたと分析されています(Laibson, 1997)。

3. 賃金と物価の「好循環」は実現するか?

一方で、金利上昇にはポジティブな側面もあります。それは「賃金」への影響です。

経済学にはフィリップス曲線という概念があります。一般的に、物価(および金利)が上昇する局面では、失業率が低下し、賃金が上昇する傾向にあります。
2024年の春闘では、33年ぶりとなる5%超の賃上げが実現しました。これは、長年のデフレマインド(価格は上がらないという思い込み)からの脱却を示唆しています。

「名目賃金の上昇が物価上昇を上回れば、実質賃金はプラスとなり、消費活動は活性化する。これが政府と日銀が目指す『経済の好循環』である。」

貯蓄行動の変化:ライフサイクル仮説

ノーベル経済学賞受賞者フランコ・モディリアーニの「ライフサイクル仮説」に基づけば、金利の上昇は、資産を持つ高齢者層の利子所得を増やし、消費を刺激する可能性があります。一方で、住宅ローンを抱える若年層には逆風となります。
2025年以降、日本社会では「金利の恩恵を受ける層」と「金利の負担に苦しむ層」の格差(K字型経済)が拡大する恐れがあります。

4. 私たちが取るべき行動:サンクコストに囚われない

では、私たちはどう行動すべきでしょうか。行動経済学の知見は、過去の判断(低い固定金利で借りなかったこと等)を後悔するサンクコスト効果に囚われず、今の時点での最適解を選ぶべきだと教えています。

  • 変動金利ユーザー:繰り上げ返済を行い、元本を圧縮する(利払い負担を減らす)。
  • 預金者:「金利0.001%」の口座に放置せず、変動金利型の国債や、金利上昇に強い金融商品へのシフトを検討する。
  • 消費者:「安いニッポン」の終了を前提に、スキルアップによる人的資本(稼ぐ力)への投資を行う。

まとめ:知的武装としての経済学

2025年の「金利ある世界」は、決して恐れるべきディストピアではありません。それは、お金に「正当な値段(金利)」がつく正常な経済への回帰です。

重要なのは、メディアの扇情的なニュースに踊らされず、政府統計や経済理論に基づいた冷静な判断を行うことです。実質金利や将来価値といった概念を理解することは、あなたの資産を守る最強の防具となるでしょう。


参考文献・引用元

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